機械翻訳 精度比較~マニュアル編~
ものづくり現場に欠かせない作業マニュアルや業務マニュアルを翻訳される際、機械翻訳を使用されている方も多いかと思います。今やビジネスにおいて外国語を扱う場合に欠かせないサポートツールとなっている機械翻訳について、マニュアルによく出てくる文例を元に主要エンジン3種の翻訳結果をプロ翻訳者目線で精度評価した結果をレポートいたします。
『DeepLってGoogleよりもいいの?』『結局どの機械翻訳を使えばいいの?』など、機械翻訳の精度について疑問をお持ちの方々は、ぜひ参考にしてください。
目次[非表示]
- 1.今回比較する3つの機械翻訳
- 2.評価ポイント
- 3.例文を用いた精度比較
- 4.精度評価の結果
- 5.まとめ
今回比較する3つの機械翻訳
本記事では2023年現在、ユーザーが多い3つの機械翻訳を取り上げ、精度比較を行います。DeepL、Google Translate、Microsoft Translatorです。
DeepL
ドイツ発祥のDeepL社が2017年から提供しているDeepL翻訳は、機械学習を用いた人工知能によるオンライン翻訳サービスです。2020年からは日本語にも対応しており、近年話題の機械翻訳です。
DeepLは元々『Linguee(リンギー)』というプロの翻訳者に対訳データを提供するサイトを運営していたため、ユーザーであるプロの翻訳者から収集した質の高い対訳データを大量に保有していました。また、DeepL社はインターネット上にある原文と訳文の対訳データを紐づけて収集する技術を持っていることで、他の機械翻訳と比較してより細かいニュアンスで翻訳されると、評判になっています。
Google Translate
皆さまご存じの通り、世界最大のIT企業が開発した機械翻訳です。Google翻訳は元々、決して優れた精度のものではありませんでした。文章を翻訳するというよりは、単語の翻訳に利用したり、文章の大まかな意味を把握したいといった利用が多かったのですが、2016年にニューラル翻訳の日本語サポートをスタートし、飛躍的に翻訳の精度が向上しました。
また、Webブラウザ版でのGoogle翻訳では、テキストのみならず、ファイルの翻訳やウェブサイトの翻訳も可能になり、アプリ版ではカメラ機能を使うことで、撮影した写真に含まれるテキストを翻訳できるようになりました。
Microsoft Translator
こちらも広く知られている機械翻訳です。過去に大阪の地下鉄『御堂筋線』を『ミドウマッスルライン』、『堺筋線』を『サカイマッスルライン』と訳出してしまうなど、固有名詞の大きなミスが関西で話題になっていました。もちろん、この誤訳は現在修正されております。
評価ポイント
当社でピックアップした原文を各機械翻訳で処理を行い、その結果を各分野のプロ翻訳者の視点で分析しています。今回は、人間による翻訳(人手翻訳)を評価する際にも重要な、下記4つの軸を基準としました。
・正確性:情報の正確さ、原文理解、専門知識
・流暢性:文章の流暢さ、文章の流れ、読みやすさ
・用語選択:用語の適格さ、専門用語の選択と運用
・その他のケアレスミス:訳抜け、句読点のミス等
これらの軸に対し、訳文を3段階で評価しました。
3点:人手翻訳と同等レベル、手直しは不要
2点:ポストエディット可能なレベル、わずかな手直しが必要
1点:大幅に手を入れなければならない
本記事の検証は、記載の文例に対する評価です。同じ分野であっても、文例が異なる場合は違った結果が出る可能性もございますので予めご了承ください。また機械翻訳エンジンは日々進化しています。本記事で述べることは、あくまで今回行った検証の結果に過ぎないということをご理解ください。
例文を用いた精度比較
例文
ディスプレイのお手入れの際は電源を切ってください。
柔らかい布で軽くふき取ってください。
汚れがひどいときには水でうすめた中性洗剤に浸した布をよくしぼってふき取り、乾いた布で仕上げてください。
マニュアルによくあるシンプルな文章ですが、日本語によくみられる「主語や目的語の省略」起きているので、機械翻訳でどのように訳出されるかがポイントになってきます。
まずはお手本となる人手翻訳(プロの翻訳者による翻訳)の訳文から見てみましょう。
お手本となる人手翻訳
Turn off the power when cleaning the display. Gently wipe it with a soft cloth.
If stubborn stains persist, wipe off the stains with a cloth soaked in neutral detergent diluted with water and wrung out well, and follow with a dry cloth.
「ふき取り」に対して「wipe off the stains」と訳出されており、「汚れを拭き取る」ということが明示されました。やはり「日本語で省略されている目的語を補う」というところがミソになりそうです。
それでは順に機械翻訳の訳文を見ていきましょう。
DeepL
Turn off the power when cleaning the display.
Wipe the display lightly with a soft cloth.
If the display is heavily soiled, wipe it with a cloth soaked in neutral detergent
diluted in water and wrung out well, then finish with a dry cloth.
原文に「ディスプレイを」という言葉が入っていないにもかかわらず、2文目は「wipe the display」、3文目は「If the display is heavily soiled」と訳出されていて、「ディスプレイ」を補って訳出しているところがポイントです。ほぼ正確で流暢な訳文になっているのではないでしょうか。
Turn off the power when cleaning the display.
Wipe gently with a soft cloth.
If it is very dirty, squeeze it well with a cloth soaked in a neutral detergent diluted with water, wipe it off, and finish it with a dry cloth.
「何の汚れがひどいのか」「何を絞って拭き取るのか」というところで少し苦戦してしまった印象を受けます。「よくしぼってふき取り」の部分は、「squeeze it well with a cloth」ですと「布を絞る」ではなく「布で絞る」になってしまうため、この部分は誤訳になっています。ほかの部分は正確に訳せており、十分使えそうです。
Microsoft
Turn off the display when cleaning.
Wipe off lightly with a soft cloth.
When the stain is severe, squeeze and wipe off the cloth soaked in a mild detergent soaked in water and wipe it off. Finish with a dry cloth.
1文目、他の2つのエンジンでは「Turn off the power when cleaning the display. 」となっていたのに対して、前半部分が「Turn off the display」となっており、すっきりした訳になっています。
プロの翻訳者評価では、「よごれがひどい」という意味での「ひどい」に対して「severe」が使われているのが不自然ということで「persistent」に修正することを提案しています。また、「wipe off the cloth」も「布を拭き取る」となってしまっています。
「a mild detergent soaked in water」も「水に浸した中性洗剤」となっており誤訳になっているので、「水で薄めた中性洗剤に浸した~」という意味になるように修正する必要があります。
精度評価の結果
DeepL |
Google |
Microsoft |
|
正確性(Accuracy) |
3 |
2 |
1 |
流暢性(Fluency) |
2 |
2 |
1 |
適格性(Terminology) |
3 |
2 |
2 |
その他のケアレスミス(Other) |
3 |
3 |
3 |
TOTAL |
11 |
9 |
7 |
2点:ポストエディット可能なレベル、わずかな手直しが必要
1点:大幅に手を入れなければならない
DeepLが11点と、かなり高評価になっています。
次いでGoogleが9点、Microsoftが7点となっており、全体的に良い結果が出ました。
DeepLは正確性に加え、流暢性も問題ないという結果になりました。
GoogleとMicrosoftも機械翻訳をそのまま使えないにしても、多少の修正を加えることでマニュアルとして使用することができる品質なのではないでしょうか。
まとめ
この記事では、マニュアル分野の機械翻訳の精度比較について以下の内容を解説しました。
比較する3つの機械翻訳
評価ポイント
例文を用いた精度比較
精度比較の結果
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